本日のトピックは乳頭腫(乳頭イボ)についてです。
皆さん一度は見たことがあるのではないのでしょうか?
本病気はパピローマウイルス科の牛パピローマウイルスによって起こる牛の腫瘍です。
腫瘍といっても悪性ではなく良性腫瘍のため、これが原因で牛が死亡するといったことはありません。
しかし、搾乳時に疼痛を示す個体、市場価格の低下、ミルカーとの隙間に空気が入りライナースリップを誘発し環境性乳房炎の罹患率を高めるなど、悪影響は見逃せません。
本日はこの病気についてお話しします。
原因と疫学
パピローマウイルス科の牛パピローマウイルス(BPV)2歳以下の若齢牛で好発
発症牛との接触感染や、吸血昆虫(ブユ、アブ)による咬傷により媒介するとも報告されています。
本院で乳頭腫でよく相談を受ける農場は、川や山の近くに立地する農場で多い印象です。
雄よりも雌で発生率が高く、パピローマウイルス(PV)による腫瘍は,エストロゲンがコファクターとして働くことによって増悪化するともいわれています
治療法
- サリチル酸やヒノキチオールを成分とする薬剤(メナドン)を病変に塗布
- ハトムギ子実に含まれるヨクイニンの投与
- 外科的な切除、結紮壊死、抜去
このように、いくつか報告がありますが確立されていないのが現状です。
また、これらの治療法は継続的な投薬が必要であること、蹴られる危険、鎮静が必要であることなど手間がかかることが拭いきれません。
今回、2症例ではありますが重度感染牛に対して奏功した治療法がありましたのでご紹介します。
商品名は「AHCミックス」という納豆菌(Bacillus subtillisDB9011株)を主体とした液体製剤です。
用法:5ccを1回経口投与(重度の場合1か月後に再度5cc投与) これだけです。
それだけ??と感じる方も少なくないと思いますが実際これだけなのです。
納豆菌による作用機序は以下のようなイメージです。<開発社より>
実際の症例画像を見ていただきます。
症例①
- 分娩2か月前の初妊牛。分娩前のためセラクタール等の鎮静処置をしたくないという稟告
- 全乳頭散在的に乳頭腫の発生(写真①)
- 重度症例とし、AHCミックスを一か月おきに2回投与
- 分娩後タオルの清拭の際に枯れる様にとれる(写真②)
症例②
- 乳頭全体が被覆されており搾乳困難であった初産牛(写真③)
- ライナースリップが発生し乳房炎を罹患、その乳期は搾乳停止
- 重度症例とし、AHCミックスを一か月おきに3回投与
- 3か月後に枯れる様にイボが取れる(写真④)
このように重度にイボが疣贅している症例で顕著な効果が得られました。
N数は2頭ですが投薬以外の処置を施していないため、効果ありと当院は判断しています。
しかし1点気を付けなければいけない点は治癒までのスピードです。
本2症例では最終的に2-3か月で治癒しましたが、牧場によってはすぐに直したい牛がいるのも現状です。
その場合は外科的な早期摘出が推奨されます。
未経産や治癒までに時間を要してもいい症例に関しては、非常に有効な手段として頭に入れておいてもいいと思います。
予防策
乳頭腫発症例のイボを切除破砕し、濾過後0.5%ホルマリン液で作成する自家ワクチンが過去に報告されています。しかし、原因ウイルスは29種類の型に分けられており、乳頭部の病変からは1、2、6型が頻繁に検出されますが、ワクチンを作成したとしても感染した原因型が違う場合効果を発現しないことがしばしばです。実際に北海道にて、17∼26ヶ月齢のホルスタイン種700頭中、約150頭(21%)の乳頭に良性腫瘍が集団発生した事例がありますが、この原因ウイルスは3種類のBPVによる単独及び混合感染であったと報告されています。
また、北海道の農場において,春から夏,秋にかけて牛乳頭腫症の発生が増加する事例が報告されていること、本院で相談を受ける農家さんの傾向からも、牛舎及び牧野での殺虫剤散布による防虫対策を徹底することのほうが重要かと感じています。
【参考文献】
・獣医内科学 第2版 文栄堂出版
・畠間ら 北海道で集団発生した新型牛パピローマ(乳頭腫)ウイルスによる牛乳頭腫症
・信本聖子ら 公共牧場入牧牛に流行した牛パピローマウイルスによる乳頭の乳頭腫,北獣会誌,52, 7 (2008)
・Yukiko Maeda et al., An outbreak of teat papillomatosis in cattle caused by bovine papilloma virus (BPV) type 6 and unclassified BPVs (2007)
・Campo MS:Animal models of papillomavirus pathogenesis, Virus Res, 89, 249-261(2002)
・Elson DA, et al., nsitivity of the cervical transformation zone to estrogen-induced squamous carcinogenesis. Cancer Res, 60, 267-1275(2000)
(文責 牧野)